はじめに、谷岡さんがどういった経緯で劇場版「ペルソナ3」に関わることになったのかをお聞かせください。
劇場版「ペルソナ3」には、元々弊社(美峰)の小濱俊裕が携わっていたのですが、小濱が忙しくなったので、そのヘルプとして参加したのがきっかけでした。それが、第1章のPVの第1弾でした。そこから、美術監督として本編にも参加させていただいています。
美術監督というお仕事ですが、具体的に作品のどのような部分を担当されているのでしょう?
美術ボードと呼ばれる画面のイメージを作って、それを背景スタッフに託します。そこから上がってきた美術背景の品質管理が主な仕事になります。
背景の設計ということは、ロケハンなども行うものなのでしょうか?
作品によっては行うこともありますね。ただ、『ペルソナ3』は現代劇なので、比較的身近なもので制作できました。『ペルソナ3』は、埋立地であるポートアイランドが舞台になっているので、お台場などはかなり参考にしているんです。また、背景だけではなく、小物類も、美術チームが設計しています。『ペルソナ3』は2009年が舞台になっていますが、時代的に最新ではないのですが、そこまで古くもないという時代設定は、微妙に現代と異なる部分があったりして意外と苦労も多いんです。
例えば、どのような部分が現代と異なるのでしょう?
2009年といえば、テレビがまだブラウン管なんですよ。あとは、岳羽ゆかりが使っているノートパソコンも、今だったらタブレットなのかなとか、時代考証は細々とした部分まで気を配っているんですよ。ただ、その気配りが活かされることはそれほどないのが悲しいところなのですが(笑)。
そのなかで、『ペルソナ3』ならではの特徴を挙げるとすれば?
やはり、『ペルソナ3』の非日常感がパッと見て伝わる影時間は大きな特徴だと思います。また、影時間とひと言で言っても、その表現は章ごとに変えている部分もあって、とくに顕著なのが第1章と第2章ですね。第1章では、絵画的な表現を出していたのですが、第2章では写実的な空間の表現を意識して制作しました。その違いを出しつつも、影時間としてきちんと伝わるようにするのが僕たちの仕事です。影時間は緑という、現実でもなかなか見られない空間を表現することになるので、その違和感を感じさせつつも、本当に実在するかのようなリアルさも表現しなくてはいけません。それは、キャラクターに関しても同じことで、キャラクターも2次元の存在ですが、そこにいるように感じられる3次元的な見せ方を心がけています。そのために、煙のようなモヤを描いて、そこに照明を当てることで、立体感や奥行きというものを演出することもあります。このあたりは、洋画の影響が強く、「エイリアン」や「ブレードランナー」といった作品の照明の当て方はかなり参考にしていますね。
『ペルソナ3』は現代劇ですが、ファンタジーやSF作品を描く際は、どのようなものを参考にされているのでしょう?
洋画などを参考にすることは多いですね。また、美術の依頼をいただくときには、すでにキャラクターのイラストなどが完成していることも多いので、キャラクターのデザインや身につけているものから、なぜこのキャラクターはこんな衣装なのか、こんなものを身につけているのかということを考えながら制作していくこともあります。
では、劇場版「ペルソナ3」のなかで、背景や小物など、美術監督としてここに注目してほしいというシーンはありますか?
第2章の冒頭で戦う、ホテルのシーンは美術的にいろいろとこだわったので思い入れがあります。部屋ごとにデザインやカラーも異なりますし、SMやコスプレなど小物にもかなり作りこんでいて、描いていて楽しかったです。ただ、バトルで一瞬にして壊されてしまうんですけどね(笑)。あとは、同じく第2章になりますが、縁日のシーンの屋台はすごくこだわって作っているんです。看板などもすべてこの作品のためにいちからオリジナルで作っていますし、入口付近に匂いが出る屋台を配置するなど、縁日シミュレーションのようにいろいろ考えて作りましたね(笑)。
ちなみに、美術監督としてではなく、谷岡さん個人として気に入っているシーンは?
第2章の花火のシーンはすごく気に入っています。あのシーンって、劇場版「ペルソナ3」でみんなが1番幸福なシーンというのが、その理由です。また、そのなかで天田 乾の「こんな日が、これからもずっと続けばいいのに」というセリフが、キレイなものは儚いという花火との対比になっているのも、その先の展開も含めてとても心に残るシーンでした。あのシーンがあったからこそ、第4章のラストが映えるいいシーンだと思います。