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メリハリとなるギャグシーンはとくに慎重に描いています#6 編集:櫻井 崇(颱風グラフィックス)
2Dを3Dのような空気感で表現できる「ペルソナ3」の世界観#6 カラーグレーディング:茶圓一郎(颱風グラフィックス)

“間”と“色彩”で整える「ペルソナ3」の世界観

まずは、お2人が劇場版「ペルソナ3」に関わられることになった経緯をお聞かせください。

櫻井 僕は、TVアニメ「ペルソナ4」にもプロデューサー兼編集として携わっていまして、その流れでアニプレックスのプロデューサーの足立和紀さんたちと一緒に劇場版「ペルソナ3」のプロジェクトを立ち上げていきました。

茶圓 僕は元々実写の映像作品に携わっていて、アニメーション作品に携わったのは櫻井に誘われて現在の会社に入社してからなんです。じつは、その前にある打ち合わせで岸 誠二監督にお会いする機会があったのですが、初めてアニメーションの制作に携わったのが、岸監督が指揮をとられた「AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~」という作品ということもあって、なにかと『ペルソナ3』という作品には縁があるのかなと感じていました。

櫻井 茶圓さんにカラーグレーディングとして参加してもらったのは、『ペルソナ3』という作品が独特な色彩を持っていたので、通常のアニメの作り方ではその世界観を表現できないだろうなと考えたからなんです。

茶圓 作業に入る前に、設定資料集などを見させていただいたのですが、たしかにこの色彩を1枚の画像にあわせるのは大変だろうなと思いました。

そのカラーグレーディングのお仕事なのですが、具体的にはどういった作業になるのでしょうか?

茶圓 アニメーションは大人数のスタッフが関わっていて、同じシーンでもさまざまな方が描いています。その整合性をとって全体の色彩のバランスを調整しつつ、光や影といった効果をプラスαで加えるという作業になります。この作品でいうなら、誰が見ても『ペルソナ3』の世界観だとわかるように色彩を整えていく作業ですね。


  • 作業前

  • 作業後


  • 作業前


  • 作業後
その『ペルソナ3』らしさを、どのように表現されているのでしょうか?

茶圓 元々独特な色彩を持っている作品ですが、そのなかでも日常のシーンにおいて影にピンク色を重ねてみたり、光のなかに淡い色を加えるといった通常では使わない色みを入れて、2Dではあるのですが3Dに感じられるような空気感を生み出すことが、『ペルソナ3』らしさの表現につながればと考えています。具体的にいえば、第2章の真夏のギラギラした空気感などは、立体感を意識しています。

なかでも、とくに印象に残っているシーンなどはありますか?

茶圓 どのシーンも気に入っているのですが、しいて挙げるとすれば第2章でアイギスが初登場するシーンで、背景がブルーバック1色だったシーンは印象に残っていますね。色のグラデーションがまったくない青1色の背景はおもしろい表現だと思いました。あとは、同じ第2章のラストシーンですね。ここはモノトーンに近い色調で整えたのですが、こちらも通常のアニメーションではなかなか見られないものだと思います。

なるほど。次に櫻井さんにもお仕事の内容をお聞きしたいのですが、編集とはどういった作業になるのでしょうか?

櫻井 監督が上げてきたコンテを見て、カットの長さを調整していくお仕事になります。このカットは何秒といった時間を割り出して、そこからムービーを作り、アフレコの素材を作ったりするのも僕の仕事ですね。いわゆるカッティングという作業で、作品全体の間を切ったり伸ばしたり、ときにはカットの順番を変えたりして、お客さんに伝わりやすくする役割です。

そのなかでとくに印象に残っているシーンを挙げるなら、どのシーンでしょう?

櫻井 「ペルソナ3」は、基本的に暗いお話なので、全体的に静かでキャラクターの表情を見せるというシーンが多くなるんです(笑)。そういったなかだと、やはりギャグのシーンはすごく気を遣いますね。印象に残っているのは、第2章で主人公の結城 理がアイギスをナンパするシーンや、第3章の露天風呂のシーンです。シリアスのなかに、あのようなギャグシーンが加わることでいいメリハリになっているので、そのぶん慎重に描かなければいけませんからね。そういう意味でも、露天風呂のシーンや、第2章の冒頭のホテルでの理と岳羽ゆかりとのやりとりなどは、大好きなシーンでもありますね(笑)。

では、お気に入りのキャラクターを1人挙げるなら、どのキャラクターになりますか?

茶圓 僕はアイギスですね。アイギスを見ていると、世代的に石ノ森章太郎作品に見られるような人造人間の悲哀みたいなものを感じてしまうんです(笑)。

櫻井 なるほど(笑)。僕は真田明彦ですね。あのオチャメな感じとか、理とのやりとりは見ていて楽しいです。

お2人とも、第1章から作業されてきて、今回で4作目になります。長期間同じ作品を制作されてきたことで、作業面で変化があった点などありますか?

櫻井 編集という仕事は、基本的に変化はないかなと思いまが、茶圓さんは変化があったのでは?

茶圓 そうですね。当初、カラーグレーディングという作業は、弊社のなかではまだ浸透していないものでした。それだけに、初めてカラーグレーディングを施した画面をスタッフのみなさんにお見せしたときの反応が、かなり拒否感があったんです (笑)。ただ、1度お見せしてからは、監督などからこうした画面を作りたいという声もいただけるようになって、みなさんの柔軟な思考に僕が驚かされましたね。今では、カラーグレーディングを取り入れてよかったと言ってもらえるようになって、ひと安心しています(笑)。

自然と意識した最終章の表現

現在、絶賛第4章の作業中とは思いますが、最終章という部分を意識して作られている部分もあるのでしょうか?

櫻井 やはり最後なので、ラストシーンでみなさんに泣いていただけるような間の取り方を意識しています。どのような間をとれば、みなさんにうまく伝わるのか試行錯誤していますね。

茶圓 劇場まで来てくださる方の多くは、結果をご存知だとも思うので、ある程度しんみりして来てくれるのかもという期待もありますけど(笑)。僕には、高校生の息子がいるのですが、最近彼も『ペルソナ』シリーズのファンになったようで、この作品の魅力を聞いてみたところ「人間関係」だと言っていたので、そこをうまく表現できれば感動してもらえるのではないかとも思っています。また、ストーリーのほかに、ビジュアル的にも雪のシーンがあるなど、これまでと異なる表現があるので自然と最終章を意識させられますね。

雪のシーンでは、どのような苦労がありますか?

茶圓 足跡などが残るので、色を補正していくなかで、そうした細かな表現が消えてしまわないように注意しています。これまでよりも、より繊細な作業を求められますね。また、田口監督はほかにもいろいろやりたい表現があるようなので、その理想のお手伝いができればという感じです。


  • 作業前

  • 作業後
さきほど、『ペルソナ3』の魅力というお話がありましたが、お2人が考える『ペルソナ3』の魅力とはどのようなものでしょう?

櫻井 『ペルソナ3』は『ペルソナ4』の前に出た作品なので、ストーリーなども荒削りな部分があると思います。ただ、それが作品に尖った空気感を生み出していたり、挑戦している部分も多かったりして、作品の魅力になっているのだと考えています。僕たちとしては、その尖ったスタイリッシュな部分をどう表現するかというチャレンジ精神も生まれていて、そうした大きな可能性を秘めた部分が魅力なのだと思います。

茶圓 挑戦的という意味では、ビジュアル的には作りやすい環境を持った作品だと思います。第1章の最初のメインビジュアルなどは、きっとTVアニメ『ペルソナ4』だとできなかったのではないでしょうか? そういう意味で、もし先に『ペルソナ4』に関わっていたら、僕は『ペルソナ3』の作業はできなかったかもしれません(笑)。

櫻井 たしかに、第1章の最初のメインビジュアルはほかの作品ではなかなかできないデザインでしたね。第2章のアイギスが1人で桟橋でたたずんでいるビジュアルも、『ペルソナ3』だから実現できたビジュアルだと思います。あのビジュアルは海が広がる左側の色が強く、アイギスがいる右側に向かって色を抜くという作業を行っているのですが、通常のアニメ作品ではまず行うことがない作業ですから。それらは、映画館でポスターが並んだときに、ほかの作品に埋もれないようなデザインにしたいという目的から生まれているのですが、それを実現できたのは『ペルソナ3』という作品が持つ挑戦的な考え方があったからかもしれませんね。

第1章から、そうした挑戦を行ってきた劇場版「ペルソナ3」チームですが、チームとしてそれぞれどのような印象を持たれていますか?

櫻井 よくないですね、なあなあになってしまって(笑)。元々同じ会社のスタッフなので、それぞれが何を求めているかがわかってしまうんです。だから、みんな甘えてしまう(笑)。ただ、そのぶんチームとしては完成していると思いますよ。

茶圓 打ち合わせなどは、同窓会みたいな感じですよね(笑)。背景などでは、僕のカラーグレーディングを見て美峰さんが新しい表現を作ってくれるなど、スタッフ間でコール&レスポンスが生まれてきていたので、今回で最終章となって、そうしたやりとりがなくなってしまうと思うと寂しいですね。

最後に、劇場版「ペルソナ3」を楽しみに待っているファンに向けてメッセージをお願いします。

茶圓 第3章までとは異なるビジュアルにも挑戦していますので、ストーリーとあわせてそうした空気感も一緒に楽しんでいただけるとうれしいです。

櫻井 予定よりかなり時間がかかって、やっと第4章をお届けできることになりました(笑)。時間をかけさせてもらったぶん、じっくり練り込むことができたので、みなさんが期待する作品として仕上がっていると思います。最終章ということで、しんみりするシーンもあることと思いますが、これまでのストーリーを噛みしめることでより味わいの出る作品にできればという想いで制作していますので、ぜひ劇場まで足を運んでいただければと思います。